俄かに話題に上ることが多くなったような事物に関して、関連の基礎的な知識や、そこから拡がり得る話題、少しばかり知っている、または知らないを交えて、適当な本を読んで学んでみるというようなことは有益だと思う。そして必要な事でもあると思う。
「ウクライナ」は「俄かに話題に上ることが多くなったような事物」の最たるモノのように思う。通読したが、なかなかに為になった。
「おわりに」と題された編者の言によると、本書の企画は2011年頃に起こったもので、順次準備を続けていた中で2014年に色々な情勢変化が起こったことから、様子を観ながらそれに関連する事項も盛り込もうとした。そして2018年に登場している。
結果として、また「異常な事態」となっているウクライナに関して「現状の“前史”を含めた様々な事柄を知る一冊」として「現在読む」ということでも好適な内容になっているように思う。
本書は世界中の様々な国や地域の情報を供する「エリア・スタディーズ」と銘打ったシリーズの一冊となっている。様々な分野に通じた執筆者が、各々の得意な話題に関して綴ったモノを集めている。本書の場合、それが65篇なので題名に「65章」と在るのだ。
国旗や国章のことから起こして自然環境や主要な都市の様子という地理系統の事柄、民族や言語や宗教という外国の様子に触れてみようとする場合によく話題になる事柄、古代から近現代までの通史的な事柄、文学から料理やスポーツまでに観光的な事も加えた文化関係の事柄、1990年代の「独立」の後の経過や最近の様々な問題に関連する事柄と、大きく5つの章に65篇が割り振られている。
5つの章の各々が好く、或いは「章毎に分冊にしたリーフレット」的なモノが在っても善いのかもしれないと思った。殊に「1990年代の「独立」の後の経過や最近の様々な問題に関連する事柄」の章に関しては、「ウクライナ」が「異常な事態」になっている「今」であるからこそ、「その“前史”」としてより多くの人が知るべきことだと思った。内容は「知ろうとする」という素人に必要なことであると思った。
「自身に向けたメモ」ということで敢えて要約しておく。
1990年代に「最早“ソ連”が維持出来ない…」ということになり、(少し先に“離脱”のバルト3国を除く)12の共和国が独立した。ユーゴスラビア等で見受けられた武力紛争のようなモノが程無く発生するのでもなく、スムースにスタートは切った。
それでもウクライナはロシア等との摩擦のタネも抱えて、経済運営も苦しかった。そして「脱露入欧」というような路線と「共存」という路線で随分と揺れた。「ウクライナ!」というアイデンティティーも作られ、確立して行くようなプロセスも在った。
2014年の<ユーロマイダン革命>でヤヌコーヴィチ政権が排されてしまった頃、クリミアのロシア「併合」という問題が生じ、ドンバスの紛争が先鋭化した。そしてそうした紛争を巡るウクライナとロシアとの話し合いは、行っては戻りを繰り返し、話が拗れてしまった。そしてクリミアやドンバスの問題だが、既にウクライナの経済活動にネガティヴな影響ももたらしてしまっているという。
というようなことだ…
「1990年代の「独立」の後の経過や最近の様々な問題に関連する事柄」の章では、産業や軍事や、周辺諸国との関係や、日本との関係等の話題も取上げられている。
各章、各々に非常に興味深いが、多彩なモノを含むウクライナは「国」としては未だ新しく、様々な課題を抱えながら色々と努力していて、現在でも色々と愉しい文化的発信も為されている。何処へ進んで行くのか?そういう興味深い地域であるだけに、昨今の「異常な事態」は哀しむべきだ。
哀しむ他方、彼らを少しでも知りたい。そんなことで、偶々出くわしたことを切っ掛けにゆっくりと読んでみた。広く御薦めしたい。