『入江泰吉の原風景 昭和の奈良大和路 昭和20~30年代』…(2021.09.10)

↓一冊の本…写真作品の本だ…
10-09-2021 my ones (14)
↑大変有難いことに「重複して求めてしまっていたモノで自身の分は在るから…」と或る方から贈って頂いた。恐縮しながら拝受して、大切にしている。そして時々紐解いている。

入江泰吉(いりえたいきち)(1905-1992)は奈良の風景の写真で大変に知られている。奈良市に寄贈した作品を基礎に<写真美術館>が設けられていて、なかなかに面白い場所となっている。

この入江泰吉が撮り貯めていた、作品として広く知られているのでもない風景写真を集めたというのが本書である。<写真美術館>が携わった出版であるようだ。

自身は奈良県へ何度か足を運んでいて、勝手ながら「関西の別邸」と呼ぶ場合さえ在る気に入った宿も市内に在って、益々足を運ぶ回を重ねてはいる。が、それも比較的近年のことで、少し古い様子を承知しているのでもない。

そういう背景で本書を拝見すると「〇〇通!?こんな様子だった…」、「この場所に何やら人が集まっている…この時代、人々の外出時の服装って?!」、「現在は人を入れていない筈だが…入ることが出来た時代だった!?」という感じ、「ここ?あの駅の近く?所謂“沿線ニュータウン開発”というのに着手されたような頃??」というような様子で、何回頁を繰っても新鮮だ。率直に、現在では余りにも様子が変わって、余程地元に明るい人でもなければ場所の特定が困難かもしれない。それでも本書では、そういう「現在は〇〇が在る」という説明的情報も多くの写真に付されている。大変な作業であったような気もするが、それを読んで「アレの辺り!?」と驚きを新たにする。

掲載写真が撮影されたのは昭和20年代、昭和30年代で、当然ながらカメラー<写真美術館>には入江泰吉が愛用したモノが展示されているが…ーにフィルムを入れて、撮影後に現像し、プリント―当時は「印画紙に焼付」と寧ろ言ったかもしれない…―をするモノクロ写真ばかりが載っている。「何となくモノクロ写真が好き」で愉しんでいる自身には、大変に勉強になる作品集ということにもなっている。

作品を視ながら、撮影者の入江泰吉は昭和20年代、昭和30年代の手近な様子を眺めて「失われて行くかもしれない何か」と「受継がれていくかもしれない何か」とが混在していることを想い、やがて「護り伝えたい何か」を写真に記録しようとしたのかもしれない、というようなことを考えた。

やや卑近な話しになるかもしれない。入江泰吉の略歴的な情報に触れて「1905年生まれ」ということに気付いた。これは確か、他界して久しい父方の祖母の生年と似たような頃であることに思い至った。ということは、この本に在るような写真の景色は「祖父母達が視ていたような様子」、「祖父母達が一線で活躍していたような時代の様子」ということになる。尤も、自身の縁者が当時の奈良県に在ったのでもないので、多少様子は異なるであろう。が、それでも自身が産まれる以前に他界している父方の祖父は鉄道関係の仕事に携わっていたと聞くので、奈良県でも動いていた蒸気機関車が写っている画を視ると、祖父母が視ていたような様子だと熱くなる面も在った。

この一冊は「写真の大きな魅力」を伝える<写真美術館>の労作で価値が高いと思う。そして「失われて行くかもしれない何か」と「受継がれていくかもしれない何か」とが在る中、御自身が考える「護り伝えたい何か」を撮り続けようとした入江泰吉の想いを感じる。

こういう好いモノとの出会いに関しては、こうして綴っておきたいものだ。そうしながら「奈良県か…」と想う…訪ねてみたい場所が多過ぎて、出掛けようと考え始めると、考えが収拾困難な感じになって苦笑いしてしまうということを繰り返す…

この本を贈って頂いた方に重ねて感謝申し上げたい。

この記事へのコメント

  • ライカ

    こうして紹介して頂き、
    且つとても楽しんで頂いているようで
    大変嬉しく想います。

    一度この写真集にある古い画の現在の画を同じ場所を
    探し出して、収めてみようとしましたが、
    いまは頓挫しております(笑)

    写真の価値として、スナップの勉強にも、
    これは素晴らしい写真集ですね。
    これからも愛読書として片隅に置いて頂けると
    嬉しく想います。
    2021年09月15日 10:37
  • Charlie

    >ライカさん
    こんばんは!
    価値在る一冊を御紹介頂いたこと、本当に喜んでいます。ありがとうございます。
    これは写真に写っている場所を特定し、概ね同じような角度で撮って比べてみるということをするなら、面白いとは思いますが、かなり大変ではないかと思います。
    なかなかに興味深い「既に或る種の史料…」という感さえ抱く写真作品が収まった一冊ですが、収められた画自体の内容の面白さに留まらない興味深さを含んでいると考えます。
    入江泰吉は「6×6」版や「6×9」版のカメラを多用していた他方でライカを愛用していたようですね。
    知られている作品の多くは三脚を立てて、被写体となるモノや景色とゆっくり向き合って撮っていたようですが、カメラを提げて歩き廻りながら写真を撮る場面も在ったようですね。
    そういうことで、この本の写真のそれなりの点数がそのライカを提げて辺りを歩く、または奈良県内各地を動き回った中で撮ったのだと想像しています。
    加えて「昭和30年代頃までのライカ」ですから、単焦点レンズだったと思います。
    ということは、「レンズの画角が捉え得る範囲」を常々念頭に置いて、その範囲で「気になった様子」をドンドン切り取っていたのではないでしょうか?
    そんな感じで「単焦点レンズのカメラを提げて、出くわして気になった様子を撮る」というのが好いと思っています。自身でも単焦点レンズを多用しています。<X100F>の「35㎜相当画角」や、<X-Pro2>に装着するレンズの「24㎜相当画角」、「53㎜相当画角」の出番が多いと思います。(と言いながら、広角ズームを使用する場合も交じりますが…)
    この入江泰吉の作品を収めた一冊は「大変に重要な教科書、参考書」という一面も在ります。これからも大切にしたい一冊となっています。
    2021年09月15日 17:46