読書…(2022.04.16)

↓随分と旧いベストセラーだ…
16-04-2022 X100F (15)
↑図書館で拝借した。1980年9月25日に第1刷となっているが、1980年12月10日に第16刷となっている本が図書館には在って、それを紐解いた。「3ヶ月間で16刷」というのは如何いうのであろう?出版社として慎重に少量の印刷に留めながら出荷し続けたという観方も出来ようが、少量過ぎても経費が嵩むばかりだ。多分、当時は想像を遥かに超える反響で、ドンドンと注文が途切れずに入るので順次印刷を続けたということなのであろう。

1980年の出版当時、或る意味で「社会現象」のような様相を呈したと見受けられる大ヒット作ということになるが、なるほど面白い。偶々出くわして凄く善かったと思う。

「蒼い時」と表題を冠した“あとがき”的な内容が在って、本書の執筆に関連する事情のようなモノに触れられている。歌手・女優を退くことを決めた際にエッセイ集を刊行するということになり、約4ヶ月間に亘って執筆に勤しんだのだそうだ。

この「蒼い時」という一節は、執筆に向けて用意したという「山口百恵」と名前が入った原稿用紙―この時代には作家が名前入り原稿用紙を用意するというのをよくやっていたようだが…―に万年筆で書いたモノをそのまま見せるような形式になっていた。

本書は前半部に横須賀、出生、性、裁判、結婚、引退という「自叙伝」的内容のやや分量が多い篇が集められている。これらを読むと、必ずしも恵まれていたのでもない境涯から歌手デビューを果たし、女優活動も展開した彼女の歩み、交際と結婚、結婚後に歌手・女優活動を退くこととした経過等がよく判る。

これらの各篇の後は19篇の随想が在る。人生のいろいろな場面で思ったことというような文字どおりの随想で、各篇なかなかに好いと思った。歌手・女優という「表現者」として重ねていた活動に纏わる様々な想いもこの各篇の中に在る。そして“あとがき”的な「蒼い時」に連なる。

時代をリードするような活動を展開した歌手・女優のエッセイだが、「活動した時代」というような範囲に留まらない内容が在ると思う。

巡り合った仕事で一定以上の成功を収めた中、出会った人が在り、交流を通じて「この人と人生を歩みたい」と強く願うようになって行った。表に出る活動から退こうと決意した中、少女時代から近年迄の様々な出来事を思い出しながら綴っている。そういう感じがする。

こういう「一人の女性の想い」という意味で、「時代を超えた普遍性」を帯びているというように思った。

或いは?父親との関係のような複雑な事柄に「自身の中での区切り」を設けてみたかったか、結婚を決めて行ったことに関して伝えられた「在ること無いこと」に草臥れて「本人の言明」を世に問いたかったのか、色々なことを想像しないでもない。が、なかなかに確りした筆致で、前半の方は「有名作家の私小説」でも読んでいるかのような気分にもなった。

エッセイ集の刊行に向けてプロデューサーが在って、彼女をサポートする体制も整えた中で精力的に綴った本書であるようだ。これはステージで1曲を精一杯歌うというような集中力が発揮されたのであろう。

聞けば、本書の随想という部分に載っている篇の一つが「国語の教科書」に載った例が在るとか?そういう程度になかなかに好い文の本だ。

40年も前の本であるが、思い付いて読んでみて、好い経験が出来たと思う。

↓現在は文庫本や電子書籍で入手可能であるようだ。

蒼い時 (集英社文庫)


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